
クリニックの経営において、優秀なスタッフの採用と長期的な定着は欠かせません。しかし、せっかく採用しても早期退職されてしまうケースも多く、頭を悩ませている院長も少なくないでしょう。人が辞めないクリニックを目指すには、開業前からの準備が重要です。そこで本記事では、開業時から始めるスタッフ採用・定着のポイントをご紹介します。
CONTENTS
スタッフ採用はいつから?開業前のスケジュールを押さえよう
クリニックの開業準備において、スタッフの採用はスムーズな運営の要となります。
以下では、開業前から意識しておきたいスタッフ採用のスケジュールと進め方について、段階ごとにご紹介します。
採用計画は早めに立てる
採用活動は、まず計画を立てるところから始まります。勤務時間や賃金、休暇制度などの労働条件をあらかじめ決めておくことが重要です。
特に近隣の医療機関と比較して見劣りしない条件を整えることで、優秀な人材の確保につながります。早い段階から採用方針を明確にし、納得のいく採用活動を進めましょう。
自院に合った求人方法を選ぶ
労働条件が整ったら、実際に求人を出します。自院のホームページや医療系求人サイト、地域の求人誌などに加え、人材派遣会社や紹介会社を利用するのも効果的です。自院が求める人物像を具体的に思い描き、その内容に合った媒体を選びましょう。
また、求人原稿の表現ひとつで応募者の印象が大きく変わるため「どんなクリニックで、どんなスタッフを求めているのか」をわかりやすく伝えることが大切です。応募が集まりやすくなるよう、求人方法も柔軟に検討していきましょう。
募集と面接は開業の数カ月前から
スタッフ採用は、開業の4カ月前には募集を始めるのが理想です。そこから1カ月程度で書類選考と面接に入り、開業の2~3カ月前には採用の目処が立つようスケジュールを組みましょう。
ただし、焦って採用を進めると、ミスマッチのリスクも高まります。時間に余裕がある段階から、複数名に会って比較検討できるよう進めるのが安心です。
スタッフは開業後の顔でもあるため、焦らず丁寧に、クリニックの方針や雰囲気に合った人材を見極めることが求められます。
採用が決まったら研修準備をしよう
「この人だ」と思える人材には、早めに内定を伝え、確実に確保しましょう。採用が決まったら、内定通知書を正式に渡し、働くうえでの準備へと進みます。
スタッフ研修は、遅くとも開業の3週間前から始めるとスムーズです。研修では、業務内容の共有だけでなく、スタッフ同士のコミュニケーションづくりにも時間をかけましょう。
看護師やスタッフと相談しながら、必要な備品の確認や準備を進めることで、開業当日の混乱を防ぎ、安定したスタートを切ることができます。
スタッフは何人必要?クリニックの適正人数の考え方
クリニックを円滑に運営するには、適切な人数のスタッフ配置が欠かせません。目安として、1日の最大想定患者数の約7割に対応できる体制を整えることが推奨されています。
また、一般的には来院患者20人に対してスタッフ1人が適正とされており、混雑する時間帯だけパートを配置するなどの工夫も有効です。
ただし、人件費がかさむと経営を圧迫するため注意が必要です。収支バランスの観点では、人件費はクリニックの総収入の15%程度に収めるのが理想とされています。
安易にスタッフを増やすのではなく、収入予測や運営コストを見据えて、無理のない体制を整えることが大切です。
スタッフが辞めないクリニックにするための定着対策
クリニックの運営において、採用と同じくらい重要なのがスタッフの「定着」です。
以下では、スタッフが安心して長く働ける職場づくりのために、定着率を高める具体的な取り組みをご紹介します。
医療業界は離職率が高め
日本看護協会の調査によると、2022年の正規雇用看護職員の離職率は11.6%でした。2020年の11.5%と比べてわずかに上昇しており、慢性的な人手不足に拍車がかかっていることがうかがえます。
クリニックにおいても、せっかく採用したスタッフが短期間で辞めてしまうケースは少なくありません。人材の流出を防ぐためには、勤務環境や人間関係など、職場の中身を見直す必要があるといえるでしょう。
労働環境の見直しが定着につながる
クリニックは女性スタッフの多い職場です。そのため、女性目線に立った職場づくりが重要になります。
たとえば、急な休みに対応できる柔軟な勤務体制や、家庭と両立しやすいシフト設計など、休みが取りやすい労働条件を整えることは、スタッフに心のゆとりを与え、仕事への意欲向上にもつながります。
こうした取り組みは、働く人の満足度を高めるだけでなく、クリニック全体の雰囲気や地域からの評価を高めることにもつながるでしょう。
休息と休暇でモチベーション維持を
スタッフに長く働いてもらうには、モチベーションを保てる職場環境が必要です。そのためには、休憩時間や休日の確保が欠かせません。
特に、業務が集中する時間帯の負担を軽減するために、シフトの見直しや繁忙時間帯の人員補強が効果的です。
さらに、スタッフがしっかりとリフレッシュできるよう、快適なスタッフルームづくりも意識しましょう。必要な設備や空間について、スタッフ自身に意見を聞くことで、実用的で満足度の高い休憩環境を整えることができます。
スタッフの声に耳を傾ける
スタッフからの意見や不満をきちんと受け止める姿勢は、定着率を高めるうえで非常に重要です。
不平や不満の裏には、職場改善につながるヒントが隠れていることも多く、適切に対応することで信頼関係を築くことができます。対応が後回しになると、スタッフの不信感が募り、退職のきっかけとなる可能性もあるため注意してください。
日頃から話しやすい雰囲気をつくり、問題が大きくなる前に対応できるよう、管理者としての姿勢を明確にしておきましょう。
人間関係の良さが定着率を左右する
退職理由の中でも大きな割合を占めるのが、人間関係のトラブルです。職場の雰囲気が良ければ、多少の忙しさも乗り越えることができます。
特に効果的なのが、スタッフ一人ひとりと定期的に1対1で面談を行うことです。グループの場では言いづらいことも、個別であれば本音を聞き出せる可能性が高まります。
また、小さな悩みを早い段階で解消できるため、結果的に離職を防ぐことにもつながります。信頼関係を築きやすい仕組みを意識してつくっていきましょう。
スタッフ全員の意識を揃えるために大切なこと
クリニックを円滑に運営するには、スタッフ一人ひとりが同じ方向を向いて働くことが重要です。
そのためには、クリニックの理念や方針を採用前からしっかり伝えることが欠かせません。理念に共感しているスタッフほど、前向きに働きやすく、採用判断の基準としても有効です。
また、誰もが安心して働けるように、一定の院内ルールを設けることも大切です。ルールが明確であれば、管理者がいない場面でもスタッフ同士で問題を解決しやすくなります。
さらに、具体的な目標を立てることで、モチベーションの維持やチーム全体の成長にもつながるでしょう。明確な方向性を示すことで、個々の行動がまとまり、より強い組織づくりが可能になります。
まとめ
クリニックを成功に導くためには、スタッフの採用・配置・定着までを一貫して計画的に進めることが重要です。開業前からスケジュールを立てて準備を始め、必要な人数を把握し、理念や目標を共有することで、全員が同じ方向を向いて働ける環境が整います。さらに、働きやすい労働条件や休憩環境を整えることで定着率を高め、安定した運営につながります。スタッフが安心して長く働けるクリニックづくりを目指しましょう。